86―エイティシックス―
これ滅茶苦茶面白かった。電撃小説大賞の大賞作なので、新人さんの作なんですけどとてもそうは思えないぐらいに出来が良い!いや、驚きました。近年まれにみる堂々の大賞作だと思います。
「人でないものを乗せればそれは無人機だ」という発想、「有人搭乗式無人戦闘機」という最高に悪魔的な言葉に震えます。劣等種と断定した人種を欠陥だらけの機体に乗せて過酷な戦場の最前線に放り込み、自らは安全な後方で悠々生活する人々の、徹底的な人種差別。正義や博愛や高潔といった言葉を明後日に放り投げた、人間の醜さ。そしてそれに無自覚な人々。怖いです……
そういう絶望的な世界ですが、しかしそれは出発点でしかなく、真に世界が絶望的な状況であることを徐々に明かしていく語り口にドンドン引き込まれました。いやこれ本当に未来が無いんですよ。希望が無い*1。自分でどうにかできることなんて何もないのに、なんで生きるのか?これ、僕は読んでてディバイデッド・フロントを想起してました。とても近い話じゃないですかね?
ディバイデッド・フロント〈1〉隔離戦区の空の下 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 高瀬彼方,山田秀樹
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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主人公たちは世界が絶望的な状況にあることを最初から受け入れた世代です。自分たちには未来がないこともわかっています。しかしそれでも彼らが戦うのは、なによりもまず自分に絶望しないため、なんですよね。世界に絶望することと、自分に絶望することの間には大きな隔たりがあるのだと。戦って何にもならなくても、その方が幾分か素敵な生き方だから。そして終盤、その「自分に絶望しないための戦い」に参戦した主人公の片割れは、最後の最後で、彼らから仲間だと認められたのだと思います。このどうしようもない世界で、共に戦った同志。別々の場所で、しかし同じ戦場を生き抜いた戦友だと。美しいイラストに飾られた、美しいラストでした。
*1:まぁエピローグには希望があるんですが。